B O O K
□言いたいこと、聞きたいこと
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「君は美しい」
ゼラは跪いて私の右手を取り、それを自らの口元に寄せた。
「綺麗だよ、名無し」
囁くようなその声が指先に触れるとくすぐったくて、わたしはアハハ、と声を出して笑ってしまった。
「笑った顔も、」
きれい、と言おうとしたゼラの唇を人差し指で押さえ付けた。
ゼラは目を見開いて驚いていた。
「違うの、私が言って欲しいのはそんな言葉じゃないのよ」
ゼラの手を引いて立ち上がらせる。彼の方がほんの少し高いけれど、視線が同じ高さになった。
好きな人に綺麗だとか、美しいだとか言われるのは嬉しいことだけれど、彼が本当に「私の事」が好きかどうかはその言葉では分からない。
「だから、言って」
背中に腕を回すと、ゼラの胸と私の胸がぴったりとくっついた。
制服のボタンが夏服の薄い生地にめり込んで肌を突く。
「好きだ、って」
その一言が欲しいの。
誰かにブスと言われても、ゼラのその一言で私は綺麗に笑ってみせる。そんな自信があるのだ。
ゼラは頬を赤くし、少しだけ躊躇してから口を開いた。
「…す、好き、だよ」
「ね、もっと」
「好きだ、名無しが」
彼の背中に回した腕に、ぎゅうっと力を込めた。そして胸の中に自分のおでこを押し付けて、このどうしようもなく幸せだと感じる心をぶつける。
「私も、私も好きだよゼラ」
この感情をどこへ持って行けばよいのかさえ分からずに、ただただ腕に込める力ばかりが強くなっていく。
控え目に背中に触れたのはゼラの手の平で、それだけで嬉しかった。
言いたいこと、聞きたいこと
( でもたまには綺麗って言って? )
( 勿論、そのつもりだったよ )
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end. 20100724