B O O K

□黄昏を迎えに
1ページ/1ページ


家族が生きていくには、これが必要だったの。彼女の泣きそうな顔を見て、僕は何も言えなかった。





「カネダ……?」


蹲る彼女の背中を見つけて、僕は頭の中で色々なイメージを繰り返しながら彼女の隣に座り込んだ。
心臓が耳元にあるみたいに、バクバクと激しい鼓動が聞こえる。
それは隣の彼女にも聞こえてしまいそうで、僕はますます緊張した。


「なにか、あったの?」
「え、」
「僕で良かったら話、聞くよ?」


ポケットからハンカチを取り出す。しわを指で直して、手渡した。
彼女は、受けとらない。


「名無しちゃん?」
「私に、優しくしないで」
「…え?」
「私、もうカネダとこんな風に喋っちゃいけないの!」


話を聞いて、僕は愕然とした。けれどそれを顔に出してはいけないことは、はっきりと分かった。
彼女は売春をしたと僕に言った。貧乏な家庭の為に、幼い弟の為に、と。
大粒の涙が次々と溢れては落ち、堅く握られた拳の上に消えた。


「汚いの、私…だから」


言葉が出なかった。
気の利いた言葉もなければ、彼女を安心させられるような言葉も、僕の脳内では構成されない。


「名無しちゃん…」


僕が守ってあげるから、泣かないでよ。




それは飲み下され、胃液に溶ける。彼女に届くことはなかった。




(それを言えたら、)
(君は笑ってくれるの?)





・・・・・・・・・・

な ん だ こ れ 。
相変わらず駄文ですね←

title:胎孕

20080812



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ