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□あの時確かに恋に落ちる音がした
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*学パロ
「あれ、髪切ったんだ」
「うん、鬱陶しかったから」
「短いのも似合ってるよー。超可愛いよ」
「えー、苔生えてるリーゼントを頑なに貫き通す鉄平に言われてもー」
「ひっでえ!それひどいよ名無しちゃん!」
イメチェンしたくて髪を切った。翌日ちょっとドキドキしながら教室のドアを開けた。ドアを開けたらその目の前にいたらしい、鉄平と目が合う。おはよう、よりも真っ先に髪型のことに触れられてドキッとする私。でも、次の瞬間、私の心拍数は違う意味で上昇した。「似合ってる」さらりと笑顔で言われたことが単純に嬉しくて、赤くなった顔を見られたくなくてつい口からは悪態が飛び出した。
それからというもの、私はおかしい。だって目も合わせられない。あの鉄平と。さらには少しでも可愛いって思われたいと思う私は本当に重症だ。まさかこれが世に言う恋というものなんだろうか。ううわ、嫌だ嫌だ。むず痒い。きっと勘違いに違いない。
「名無し、オレの顔になんかついてる?」
「え?なんで?」
「いやぁ、なんか見つめてくるからなんかついてるけど、なんて言葉をかけていいか分からなくて、眼力だけで伝えようと努力してるのかなと思ってさ」
「眼力ってなにそれ!てゆうか言い回し方面倒くさいよ」
「オレになんか用あったから見てたんでしょ?」
「み、見てないよ!ただ今日も素晴らしく地球に優しいなと思って」
「え?なにそれ、どういうこと?」
「苔が太陽の光を浴びて気持ちよさそうだなって」
「ええっ!?またオレのリーゼントの話!?」
ぱちり、交じり合った視線。びくりと肩が揺れる。頬を掻きながら近寄ってきた鉄平に一歩後ずさる。「見てた」その言葉に動揺した私はまた悪態をついて誤魔化してしまう。なんだこれ、今どきの小学生でもこんな反応しないよね。目を合わせられないくせに、自然とその姿を追うようになってしまった私。もうこれは確定しちゃったんだと思う。私、鉄平が好きみたい。
「あっ、名無し危ない!!前!」
「えっ?ぎゃあああ!!」
動揺した私は前を見て歩いてなくて階段から転がり落ちた。やばい、床に激突すると思って固く目を閉じた瞬間、ボスン!と柔らかい衝撃。あれ?痛くない??
「んー、オレってば流石?」
「っ!!て、てっぺ!?」
「どっかぶつけてない?大丈夫?ほんと名無しは危なかっしくて目が離せないな〜」
目を開けたらそこには鉄平が。抱き抱えられるように受け止められていることに気付いて私の体温と心拍数は急上昇する。どうしよう、好き。想いが伝わればいいのに。そう思ったら止まらなかった。
「おーい、名無しちゃーん?大丈夫?やっぱりどっか打った?え?あれ?名無し?ちょっ…」
大きな肩に自分の両手を掛けて唇を重ねた。あれ、ちょっと待って、私何してんの?好きって言う前にキスって!!ハッとして体ごと離れる。私なにやってんの、ほんと!!羞恥心のあまり自分の顔を両手で覆う。指の隙間から見た鉄平の表情はぽかーんとしていた。
「ごっ、ごめんね!て、鉄平今の忘れて!ほんとごめんね!」
なにもかも抹消したい。そう思った私は鉄平の前からとりあえず姿を消そうと立ち上がろうとした。
「わあっ!?」
瞬間、腕を引かれて再び鉄平の腕の中に引き戻された。
「っ!?て、てて、てっぺ!?」
「名無し、もしかして、もしかしなくても…オレのこと好きなの?」
「ーっ!!」
背中から抱きしめられる形で聞かれた言葉に、分かりやすいくらいに顔が熱くなって真っ赤になった。てゆうかこの男は!もう分かってるくせにわざと聞いてくるんだ。見えないけど、絶対ニヤニヤしてるし!
「ばか。もう分かってるくせに」
「オレは名無しの口から聞きたいなあ」
「やだ!離して!鉄平なんて嫌い!」
ぎゅうとキツく抱きしめられて思考が回らなくなる。
「あはは、ひどいなー。好きって聞けたら離してあげるよ」
耳元で優しく低く囁かれると、もう限界。
「…鉄平、好き。このまま抱きしめてて」
こんな、少女漫画のヒロインのような、純愛映画のヒロインのような甘ったるい台詞、一体誰が言ったのかと自分の耳を疑う。
「じゃあ遠慮なくその言葉通りに」
正面を向かされて、柔らかく抱き締められたその首に今度は腕を回した。
「ずっと名無しの口からオレを好きって聞きたかったんだよねー。でもさあ、オレはその前からずっと名無しを好きだったんだよね」
今度は、どちらからとも言わずに自然に唇が重なった。
あの時確かに恋に落ちる音がした
恋に恋になんてしないはずだったのに。今思うと、まるで確信犯な彼に恋をさせられたみたい。
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初鉄平ですね。いまいち鉄平の話し方が瞑想してる感がありありですいません(´`)