□不安に揺れる金曜日
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「今日ボギー君休みなの?」

「あれー、名無しちゃん聞いてないの?こんな可愛い彼女に連絡もしないで休むなんて彼氏失格だな!ヤドカリ萌えはオイラが怒っといてやるよ!」



ボギー君が昼休みに来なかったから気になってボギー君のクラスを訪ねてみた。クラスの外からボギー君を探してたんだけど、見つからなくて自分のクラスに戻ろうとしたとき、ボギー君の友達のセドル君(話に聞いてたけど、初めて話した)が話しかけてくれて、私はボギー君が休みだということを知った。




「熱でたんだってさー。ヤドカリ萌えのくせに珍しいことがあんだなーってオイラ面白くて笑いすぎちゃった」

「えっ、熱?…そう、なんだ…大丈夫かな」

「大丈夫大丈夫!あいつはすぐ治るって、心配するだけ無駄だって」

「そっか…セドル君ありがとう」

「いいって!今度みんなで遊ぼうな!」




にっ!と笑ったセドル君はボギー君に話を聞いたまんまだなあ、本当に仲いいんだなあ…。

それよりも、絶対、昨日私にブレザー貸してくれたせいで風邪引いちゃったんだ、ボギー君。大丈夫かな、私のせいみたいなものだもん。心配だし、気になるよ…。
それに…こうやって、関わらない日が出来て初めて気が付く。私、ボギー君のこと、なんにも知らない。ボギー君と連絡をとる手段さえ、知らない。そのことに。アドレスも電話番号も何処に住んでるかも知らない。どくん、と嫌な音を立てて心臓が脈打つ。






「あれー、お昼一緒に食べるんじゃないの?」

「今日休みだって」

「えー、珍しいね。って、どうした?なんか沈んでない?なに、まさかボギーウッズに会えないことがそんなに寂しいの?」

「ち、違うよ!そんなんじゃないよ!久々に一緒に食べていい?」

「いいけど…なんかあったの?戻ってきてから変だよ」

「ううん、なんでもないよ」



付き合ってるって言ったって、ほぼ強制だったし、最初は好きでもなかった。でも、今さらになって気づく。連絡先も知らないって…それって、付き合ってるのかな、知り合い程度なんじゃないかな。色々考えだしたら止まらなくなって不安で頭がいっぱいになった。なにこれ、私らしくない。





「次の授業移動じゃん、移動前にトイレ寄っていってもいい?」

「あっ、うん。じゃあそろそろ行こっか?」

「うん、そうして〜」

「私待ってるね」

「うん、待ってて〜」

「教科書とか持っててあげるよ」

「何から何まですまないねえ、ありがとう!」

「はいはい…」



移動前に寄ったトイレの鏡に写った自分の顔。今まで見たことない顔してる。なに、この哀しみに満ちた感じ。はぁ、ため息1つ。





「別れたからって哀しみアピール?私、別れたばっかりで寂しいんですけど、的な?」

「あははっ、なにそれ、マジうざいんですけど」

「ちょっと可愛いからって調子乗ってるからだよね」


後からトイレに入ってきた化粧がけばけばしいギャル達が私の隣で騒ぎ始めた。はあ…、私ですか。妬みに嫉妬か…うざいのはこっちの台詞なんですけど…。私は今それどころじゃないっつーの、うっさいな。不細工は黙っててよ。



てゆうか…別れたって、なに?




「てかさあ、可愛いからって誰にでもちやほやされると思ったら大間違いじゃん?」

「ボギーに声掛けてもらったからって余計調子乗っちゃってさあ。ボギーが本気になるわけないよねー」

「遊ばれてんのも分かんないとか、まじ笑えない?」


…は?なにそれ。



「だって金曜日までに落としてそれで捨てるって言ってたもんねー。今日で終わりじゃん。ってかぁ、もう終わったも同然じゃん」



なにそれ、どういう意味?



「…ねえ、どういう意味よ、それ」



気づいたら1人のギャルに詰めよって、聞いていた。そんな私をみた瞬間、彼女たちは笑いながら言った。



「最初からあんたなんかに本気じゃないってことに決まってんでしょ」

「あんたで遊んで、二度と調子乗れないようにするためだったってことでしょ。なーに、あんた本気で好かれてると思ってたの?マジでウザイんですけど」

「あんただけがボギーを好きなわけじゃないってことわかってんのかよ」

「自信過剰もいい加減にしろよ、バーカ」




キャハハと甲高い笑い声を残して出ていったギャル達。彼女らが言ったことが浮かんで消えて、浮かんで脳内にこだまする。なにこれ、苦しい。波紋が広がっていく。嫌だ、苦しい。辛い。初めて私を受け入れてくれた人に会えたと思ったのに。同じ気持ちだと思ったのに…。私だけだった?私だけ1人でこんな想い…。




「うっ…うう〜っ、」

「名無し…煩かったけどなんかあったの?…えっ!?どうした?」

「う〜、ぐすっ…」

「ちょっ、ちょっと大丈夫?どうしたの、保健室いく?」




苦しい、胸が痛い。ボギー君、苦しくて、辛いよ。



「っ…なんでも、ない。頭痛いから保健室行くね…先生に言っておいてくれる?」

「…大丈夫?」

「うん…」





保健室には行かないでそのまま屋上に向かう。あの子たち、きっとボギー君が好きなんだろうな。私よりもずっと前から。でも、ボギー君の目的を私に直接言っちゃうなんてバカじゃん。こんなの私が知らなくて本気になった私を影からバカにして見てる方が断然楽しいに決まってるじゃん。あの子ら、どうしようもないバカじゃん、逆に私が笑えるんですけど。




「…じゃなくて、きっと必死だったんだね、そりゃあ今まで散々振ってた私が好きになるなんて都合よすぎだもんね…」




だから最初、裏があるって、疑ってたのに。私がバカ。あれだけ警戒しといて、なに好きになってるのよ。

でも、それは私が私のままでいられるなんて初めてだったから。すごく心地よくて、楽しくて…それで、ありのままの私でもいいんだって…私だけ照れたり恥ずかしいんだろうなって思ってたけど、ボギー君ももしかしたら同じなんじゃないかって………そう思ったら、嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて。大好きになったのに…。







「うっ…ううー…っく…」



私と、今日別れるつもりで昨日あんなに優しく抱き締めてくれたの?学校休むなんてズルいよ、ボギー君。なにも言えないじゃない、怒ることも罵ることも、なにも言えないじゃない。
好きにさせといて、なにも言えないじゃない。好きも、むかつくってことも、悲しいって、ことも…どうせ振られるなら、感情全てをボギー君にぶつけてやりたかったよ。







「っく…うう〜…っ、」






不安に揺れる
金曜日



わかってた、わかってたのに。もう、無関心になんてなれない。でも、ボギー君に会う勇気がないよ









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