□それが彼女の愛情表現
1ページ/1ページ

「あたしセドルのこと……きっ、嫌いじゃないから!人として!!」



シーン…まさにこの効果音がピッタリだという空気が流れた。教室中の視線があたしに注がれる。あれ、あたし今何て言った?ぽかーんとするあたしと、いきなりの爆弾発言的なものを食らったセドルは目を目一杯見開きあたしをガン見していた。




「…あ、そうかよ」

「…うん」



目を見開いたままセドルは抜けた声をだす。何事かと静まり返っていた教室も、音を取り戻した。ち、違う!あたしが言いたいのはそういうことじゃなくて!確かに嫌いじゃないけれども!悶々とした気分を抱えのろのろと席に着く。




「はああ〜…」

「お前最近どうしたの?」

「ある病を患っています」

「…はあ?なにそれ」




最近つーか、ここ1、2週間?名無しの様子や行動がおかしい。おかしかったのは元からだけどより一層拍車がかかったみたいに変だ。窓枠にもたれ掛かりボギーから忙しく弄る携帯を取り上げる。



「なーボギーちゃん」

「テメェなんつった?携帯返せコラ」

「いって!何すんだよ!」

「テメェがオレを苛つかせたからだ…で?何だよ」

「最近さー、あいつ変じゃねえ?」

「名無しか?別に今始まったことじゃねーだろ」

「確かにそうなんだけどーなんか患ってるらしいし」

「…患ら?(あいつまだ告ってなかったのかよ。何だよ、患らってるって間接的すぎてわかんねーよ)…ああ、患ってるのか…バカか」

「オイラさー、愛ちゃんと付き合ったじゃん?それで名無しと喧嘩して口聞かなかったときに思ったんだけどさあー」

「何だよ」

「すっげえつまんなかったの。あんな口聞かないなんて初めてだったしー」

「ほー…それで?」

「いや、そんだけ」

「はあ?お前それマジで言ってんのか」

「はあ?マジだけど」



怪訝な顔したボギーがいい加減にしろ、とでも言いたげに睨んでくる。何んだよ、その顔。




「お前も名無しもバカで世話焼ける奴だよなァ…せいぜい頑張れよ」

「はあ?ボギー意味分かんねーし…」

「名無しがお前に突拍子もねぇこと言ってさらに意味分かんねーこと言って?大体わかんだろ…名無しはお前のこと…す「ぎゃああああっ!ぼっ、ボギー!?ななな、何の話をしてるのかな!?」



名無しは満面の笑みで生クリームたっぷりのバナナロールを食べながら教室に入って来た瞬間、血相を変えた。オイラ達の所まで走ってきてボギーの膝に座んじゃねーのかってくらいの勢いでボギーの胸ぐらを掴んだ名無しはかなり必死だということが分かった。ちなみにボギーに掴み掛かる瞬間手放したバナナロールはオイラがキャッチして頂戴した。




「何でもねーよ、お前に乗っかられても全然嬉しくねーんだよ」

「はあ?んだとコラァ!?」


未だに向かい合って膝に座るような形でボギーの胸ぐらを掴み前後に揺らす名無しを見てたら、なーんか面白くなかったから思わず割って入った。





「いい!?余計なことしなくていいから!ボギーらしくない!」

「オレのイメージどんなだよ…お前ら見てると苛つくんだよ、まどろっこしいしバカすぎだしよ」

「てかボギーも名無しも何の話してんだよ、オイラも混ぜろ!」

「うっせー!ほっとけ!大体ねえっ、誰のせいでこんなことになってると思ってんの?…あれ、そういえばバナナロールは!?」

「んあ?オイラ食べちゃったけど」

「はあん!?誰が食べていいっつったよ!?」



ボギーと向かい合う形で言い争っていた名無しはボギーから離れ今度はオイラに掴みかかってきた。



「誰のせいでってどういうことだよ、オイラ全く話が見えねーんだけどー?」



そう言ったら胸ぐらを掴み上げゆさゆさとオイラを揺さ振っていた名無しの動きがピタリと止まった。噛み付くような勢いだったのにテンションが急降下。



「はー、もう…」

「なにお前どしたの?大丈夫?」

「いいよ、バナナロールくらい」

「え?熱あんの?」

「ある意味ね…だから、誰のせいでってねえ……嫌いじゃないって言ったじゃん…バカセドル…」



はあ?まるで意味がわかんねーけど、これはオイラが原因ってこと?目の前の名無しはすっかり大人しくなって、なんか今度は若干顔が赤い?オイラを嫌いじゃない?はあ?んだよ、それ…嫌いじゃないっていったら……………ちょっと待て。もしかして、まさかだけどー…



「……………んー」



嫌いじゃない。この前からやたらとこいつから聞く言葉。




「名無し、お前オイラのこと好きなの?」


大人しかった名無しがぴくりと反応を示す。名無しはみるみるうちに顔が真っ赤になっていく。オイラの方を向いたかと思ったら金魚みてーに口をパクパクしていて、どうやら言葉が出ないらしい。





「え?ま、ま、マジで?」



何だよこれ!なんかオイラまで熱くなってきたんだけど!顔熱いんだけど!それよりもー…


「っぎゃあ!?ちょ、ちょっとなにすん…」



呆然と真っ赤になって下を向きながらつっ立っている名無しを引っ張って抱きすくめた。気づいたらこんな行動に出ていた。だってさあ、普通に嬉しかったんだよなー。





「どうしよー…オイラ普通に嬉しいんだけど!」

「ど、どうしようって何それ!もうっ、いいから離せってば!」

「オイラー、名無しが好きみてぇ」

「……は?」

「だから、オイラも名無しが好きだって言ってんの」

「…は?え?ジョーク?」



ぽかん、と口を開けて惚ける顔はまさにアホ面で吹き出しそうになった。つーかさあ、こいつマジで人が告ってんのにジョークって何だよ。



「お前こそふざけんなよ、オイラが名無しを好きだっつってんだぞ」

「ははは、うっそだあ」

「マジだし!つーか今気づいた」

「今かよ!…てか本気と書いてマジで?」

「お前いい加減にしろよ、どんだけオイラを疑ってんだ」

「だって…信じられるわけないじゃん」

「じゃあ両思い記念にちゅーでもしとこーぜ!」

「はあっ!?なにいきなり盛ってんの!ばっかじゃないの!」

「ぎゃはは、冗談に決まってんだろ、マジに取んなっつーの!」

「なっ!なんだそれ!おまっ、マジでふざけんな!…もーっ、ほんとに嫌だっ………っ!!?」



怒りながら胸ぐらを掴み、オイラを見上げた名無しの口をそのまま塞いでやる。暫くして唇を離すと名無しは目をおもいきり見開いて固まっていた。ぶっ!なにこの顔笑える!



「んだよ、ボギーその顔」

「はっ、お前ら教室で見せつけてんじゃねーよ」

「うっせー、ヤドカリ萌え!…って名無しお前、泣いてんのかよ!」

「っるさい!泣いてないっ、バカ!」



あまりにも大人しいもんだから視線を落とすと涙目になっている名無し。からかうと、肩をおもいきり叩かれた。



「いってえ!この状況で普通叩くか?空気よめよなあ」

「なんだよ…いきなり…!」

「照れんなよー名無し」

「照れてないし!」





それが彼女の愛情表現



「なあ、名無し、」

「なに」

「オイラのこと嫌いじゃないっていってたのは、好きだって意味だったんだな。すげー分かりにくいぜ」

「今の今まで気づかなかったセドルに言われたくないし」

「オイラは気づいたら直球だもんねー。つーか、オイラまだお前から聞いてないんだけど」

「なにを?」

「オイラのことを好きって」

「…言ったじゃん、嫌いじゃないって」

「好きって一言も言ってねーだろ!」

「あたしにとって嫌いは同じ意味なんだからいいじゃん!」

「オイラだけ好きって言うのなんて割りに合わねーんだよ!いいから言えって!」

「い、や、だ!」

「言、え、よ!」



付き合ってからもあたし達は喧嘩ばっかりで前と変わんないと思う。でも前よりもセドルと過ごす毎日がもっと楽しいし、幸せだな、なんて、らしくないことも素直に思う。だから手を繋いで帰ることも、チャリでニケツしたときにセドルの腰に手を回すなんてむず痒くて恥ずかしいことも、全部が嬉しいことになったんだ。



(一回しか言わないから。す、すす、好き…?)(何で疑問系?)(恥ずかしいから)






それが彼女の愛情表現/20120122・完
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ