□もしもに夢見る水曜日
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「名無しちゃん!」



昼休み、ボギーウッズ君とお昼ご飯を食べることが何だかんだで普通になってきている私。担任から呼び出しされ、職員室から戻る途中、大きな声で呼び止められる。はあ…またか…なんて思いながら振り向く。



「ね、ボギーウッズと付き合ってると本当なの?」



そこにはチャラチャラした軽いノリの男子が。そいつにガシッと手首を掴まれ問い詰められる。な、なにいきなりこの人!てゆうか私とボギーウッズ君が付き合ったってこと、もう噂で広まっちゃってるんだ。



「え、や…なんで?」

「俺、名無しちゃんのこと好きなんだよねー。告られて今まで断ってきてたくせになんでよりによってボギーウッズなの?」




何なのこいつ!別に関係ないじゃん!



「ねー、俺にしなよ。俺の方が毎日楽しいって」



廊下とか関係なく無理に迫ってくるチャラ男。もーっ、やだなにこいつ!気持ち悪いっ!




「ちょ…ちょっと手、離して…………っわ!?」




困りに困っていたら、肩を掴まれ引かれた身体。次いでドスン!と鈍い音と「ーってぇ!!?」と響く声。肩に回された手の主を確認すると、




「ぼ、ボギーウッズ君」

「テメェ、人の女に勝手に触んじゃねーよ」

「…ってぇーな…、いきなり蹴んなよ!」

「あ?テメェが名無しに迫ってたからよ。それによりによってオレで悪かったなぁ?ついてねーな、お前も」



声のトーンを下げてゆっくりと言ったボギーウッズ君は私の肩に回していた手を離し、廊下に尻餅ついているチャラ男子の胸ぐらを掴み拳を握る。今にも殴りかかりそうなボギーウッズ君は喧嘩慣れしているっていうのがわかるくらいオーラが違った。




「ぼっ、ボギーウッズ君もういいよ!もうやめて?」


ボギーウッズ君の握られた拳を掴み、慌てて止めに入る。チャラ男の胸ぐらを掴みながらボギーウッズ君は私と視線をあわせる。




「いいのかよ?」

「大丈夫だから」

「だとよ、テメェ名無しのおかげで命拾いしたな」



チャラ男の胸ぐらを離しそのまま床に落とすボギーウッズ君。予鈴がなり、周りに集まっていたギャラリーも散らばっていく。




「ボギーウッズ君……、ありがとう…」

「別に、礼言われるほどじゃねーよ。あ、そういえば名無し、今日、帰り何か用あるか?」

「何もないけど…?」

「なら一緒に帰ろうぜ。帰り迎えにいくからよ。勝手に帰んなよ?」

「あ、うん…わかった」



また勢いに負けて一緒に帰ることになった。まあ、私とボギーウッズ君は付き合ってるから普通なことか。さっきは本当に助かったし、帰りにちゃんとお礼言おうかな。









ーーーーーーーー



「名無し、帰ろーぜ」

「あ、うん。今行く!」




靴を履き替えて、並んで歩く。ずいぶん私よりも背が高いなあ、なんて今さら思いながら見上げて名前を呼ぶ。




「ボギーウッズ君、」

「どうした?…あーつか名無し、ボギーウッズ君ての、やめねぇ?」

「え?」

「なんか慣れねーんだよな、そう呼ばれんの」

「…え、えー?じゃあボギー君?」

「おーそれで頼むわ。で?どうしたよ」

「あ、うん。昼休みは本当に助かったから、ありがとうね」

「別にいいって。礼言われるようなことでもねーよ。自分の女、助けるくらいあたり前のことだろ」

「……そ、そっか…」

「名無しも大変だな、あんな風に告られたりしたらそりゃキモいっつーのな。つか、今まで告られた人数とか覚えてんのか?」


「…………もちろん覚えてるよ。けど、あんまりそういう話、好きじゃない」

「なんでだよ?」

「だって、本当の私を知らなくて、顔だけしか見てないって分かってても、私を好きになってくれた事実は変わらないでしょ?告ってくれるっていうのはありがたいことだけど、でも私にとってそれは喜べることじゃないから…それに告白してくれた人達に失礼じゃん、忘れたり、軽々しくいろんな人に話すのって。だから私はあんまりこういうこと話すの好きじゃない」




って…あれ、私なに話してるの?何でボギー君にこんな身の上話みたいなことしちゃったんだ?一気に話終えてからそれに気付いた。



「へぇ、なんだよ、意外とちゃんと考えてんだな」

「え?」



ボギー君を見上げると、私の頭をぽんぽんと撫でた。顔が熱くなる感じがして、話を反らした。





「な、なんてゆうかボギー君もあるでしょ?」

「オレ?ああ、周りの奴らがやたら恐がったり、先生とかにすぐ目の敵にされたりってか?」

「…うん」

「オレの場合は現にそう見られる行動とってからなー。見た目もだし、つるんでる奴らも変な意味で目立つし、喧嘩っぱやいしな」

「そっか…でも、ムカついたり悲しくなったりしない?本当のオレを知らないくせに…とか」

「今までは、うぜぇなって思ってたけどな。けど、名無しの話聞いてたら確かにそうだよなーって思ったわ」

「…ボギー君、案外いい人なのにねえ!」



笑いながら放ってしまった自分の言葉に目を丸くして固まる。ボギー君も私と同じように目を丸くして固まっていた。あれ、今…私なんて言った?




「名無しからんなこと言われるなんて思ってもなかったな」



ニヤニヤと意地悪く笑うボギー君。恥ずかしくてどうにもならなかった誤魔化すように私はボギー君の肩をバシンと叩いた。



「ってぇ、何んすだよ」

「な、何でもないし!」

「んだよ、名無し…自分で言って照れてんのか?」



ガシッと首に腕を回され頭をもう片方の手でぐしゃぐしゃと撫で回される。私はどんどん顔の熱が上昇する。真っ赤になりながら抵抗する。




「やっ、ちょっ、やだやだ!やめてよ!離してよっ!!」

「照れんなよ、名無しお前、可愛いな」

「はっ、はあ?もっ、もう何なのいきなり!」





本当に、ボギー君は私が好きなのかな?企んでることなんて、ないのかも…。なんて、疑わなくてもいい?疑いたくないって思っちゃったよ。男の子でこんなに自然体でいられた人はいなかったから。ボギー君は私をまるごと受け入れてくれるんだろうな、きっと毎日が楽しくなるんだろうなあ。だったら、ずっと一緒にいられたらなあ、なんて思ってしまった。














初めて、だった。外見だけの私じゃなくて、全部受け入れてくれてる人。







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