□ばいばい、愛しいベイビー
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※捏造です
※バトルしてるので若干の血表現あり




「は?美食會?何それ…どういうこと」

「だからー、オイラ美食會に入ることにしたんだって」

「なんで?あんな悪の塊で犯罪者の集団に入る意味、あるわけ?」

「んなこといったってさ〜お前だってオイラがどんな奴かわかってんだろー?」


ヒャハハと下品に笑っていたのに急に低くなる声。表情も一変する。ゾクリ、その眼光に背筋に寒気が走る。どんな奴かなんて、とっくに知ってる。馬鹿で変態でヘラヘラしてるのも、セドル。でも、セドルの奥に潜む本能は、どす黒くて残虐。『普通』に生活していくのはこいつには合わないし、つまらない毎日なんだろうというのも頷ける。けれど、それを言ってしまったら私とセドルは別の世界で生きていくことになる。

今、目の前にいるセドルは本気だ。私はどうすればいい?行かないでって縋ればいい?それとも行けないようにボコる?それとも、何も言わないでただ見送ればいい?自然と拳を握る手に力が入る。




「何がなんでも美食會に入るんでしょ」



棒のように立って出た言葉がそれ。またヘラリ、と笑ったセドルが言う。




「あたり前じゃん。…なー、名無し、お前も一緒に行こうぜ?」

「…は?なに…言ってんの?」

「お前だってオイラと同じじゃん?……まあ、ちょっと違うか。お前の場合は戦うのが好きなんだもんなー。誰でもいいから、戦(や)れるのが趣味みてーなもんじゃん」



ジリジリと近づいてくるセドルに一歩ずつ後退する。半分、本心をつかれてドキリ、と変な脈を打つのは私の心臓。




「……っ、あんたと一緒にしないでよ」

「こっちの暮らしはお前に合わないんじゃねーの?狭くて息苦しくてさー、結局は自分を押さえなきゃいけないじゃん」



美食屋でもなんでもない、ただ気の向くままに誰でもいいからやり合いたい。それが、私の純粋な本能。さすがはセドル。だてにずっと一緒にいたわけじゃない。しかも、ただの友達でもない関係だ。ずっと一緒にいたからこそ離れるなんて、考えられない。



「……確かに、私は戦うのが好きだし、誰でもいいから戦ってるときが一番楽しいよ……けど、あんたと一緒に美食會に入るつもりもないし、セドル、あんたをやすやすと行かせるつもりもないから」



キッ、と睨み付ける。いつの間にか、1メートルくらいの距離で止まっているセドルは、一度顔を伏せた。再び顔を上げたときはもう笑ってなかった。





「はあ…やっぱそう言うか〜。オイラ、お前を愛してっから、離れるとか考えらんねー。けど、お前が行かないっつーなら無理やり連れてく気もないし、オイラはお前にどんだけ止められたって、お前を殺してでも美食會に入るからな」


「私…だって…あんたを愛してるっつーの。どうせ行くなら私を殺して行けば。私は全力で邪魔させてもらうけどね!あわよくばあんたを殺すってのもいいかも!」





互いに握る拳。交わる視線と一気に冷たい空気が立ちこめる。瞬間、ゴツ!と鈍くぶつかり合う音が響く。互いに放った拳が左右の頬にぶつかる。



「……っ、た!」

「…はっ、やっぱ楽しそうじゃん」

「うる…っさい!!」



その言葉を払うようにおもいきり拳を振り上げる。振り上げた拳はセドルに向けて放つが、スルリと避けられセドルの背後にあったコンクリートの壁にめり込む。衝撃でパラパラとコンクリートの欠片が舞う。



「おー、怖えーなあ」



なんてヘラヘラ言ってる割りには殺気全開のセドル。すぐに声の方向を向くがそれ以上にセドルの動きが速かった。目の前にきたセドルに腹部を蹴られ、衝撃で私はぶっ飛びコンクリートの壁に激突する。詰まる息。蹴られた衝撃と圧迫により、ごほごほとむせ返る。ずり落ちる身体を飛びお越し、上から落ちてくる拳をかわす。セドルの拳は地面に直撃し、そこはぽかんと穴があく。土煙がパラパラ舞う。もちろん私だってかわすだけじゃなく、かわした流れで無防備になっている背部に仕込み刀を鞘を抜かないまま振り落とした。柄を掴む手に確実に伝わる重く鈍い感覚。



「はっ…はあ…」



息が上がる。短い呼吸を繰り返し、仕込み刀の柄を握り締める。瞬間、足を払われバランスを崩した私は胸ぐらを掴まれ地面へと容赦なく叩きつけられる。頭も地面にぶつかり脳がぐわんぐわん揺れて視界が歪んだ。背部への衝撃に一瞬呼吸がつまる。仕込み刀は叩きつけられた反動で手から離れてしまった。私の上に馬乗りになり胸ぐらを掴んでいるセドルの胸ぐらを掴み返し睨み付ける。お互いに殺気しかでてないし、完全にタガが外れちゃってる。さらに胸ぐらを掴み寄せられて、近くなる距離。



「…っは、っはあ……っ、によ!」

「勿体ねーよな、ほんと…オイラさー、名無しのことマジで殺したくねーの。けど、これ以上邪魔するならいくら名無しでも殺す」



言ったセドルは真顔で、これはほんとに殺されるってことがわかった。これ以上はヤバイなって思ったしこれ以上邪魔したって無駄だってことも。



「…ふっ…はは、だから、私を殺してけばって言ったじゃん」

「…………はー、ったく強情女が」



一瞬丸く見開きそして悲しそうな瞳をしたセドル。それを私が見逃す訳もなく、おもいっきり胸ぐらを引っ張り唇を重ねる。最初こそ、固まっていたセドルもすぐに返してくる口付け。しばらくしてから離れて、こう告げるんだ。




「……これで最後のキス」


最後、言ってニコリと笑った私はその勢いに任せて頭突き。ゴッ!という鈍く重い音が響く。すぐに一発返され殴られる。殴られたときに口の中は切れるし唇は切れるしで一気に鉄臭くなる口内。馬乗りになられて頭を押さえ付けられているせいで動きが制限され気管に流れてきた血に咳き込む。顔を背けて吐き出した血の飛沫が地面にパタタと飛ぶ。セドルがさらに拳を振りかざす前に私は膝を腹部めがけてめり込ませる。苦痛に歪んだ表情とほんの一瞬弛んだ手。腹部を力任せに蹴り飛ばし仕込み刀を拾う。鞘から抜き仕込み刀と鞘を左右に構え、あとはセドルめがけて走る。立ち上がり片手に鞭を持つセドルの殺気に気圧されそうになるけど、そんなの、関係ない。ねぇ、似てるのにどこから違ったんだろう。私、と、セドル。



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