□ほんとに嫌いなわけじゃなく、
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「あの…名無しちゃん、今いいかな?」




また女の子からの呼び出しをくらった。でも今日の呼び出しはいつもとちょっと違う。今日、朝練が終わっていつもみたいにシャワー浴びて差し入れもらって、さて教室いくか、といういつもの流れを変えたのは、



「……愛、ちゃん?」




セドルの彼女だった。朝からバカじゃなくてその彼女と絡むことになるとは。怪訝そうな顔をした愛ちゃんにあたしは話す前からうんざりしていることは言うまでも、ない。




「名無しちゃんって、セドル君のこと、どう思ってるの?」

「どうって…ばか?」



頭をポリポリ掻きながら言うと可愛く整った顔がムッと歪む。




「そういうんじゃなくて、ほんとはセドル君のこと好き…とか」

「……あたしがあいつを?…いやいや、喧嘩友達だけど」

「ほんとに?」

「…え、うん、まあ」

「なら、セドル君と距離とってほしいの」

「それは…あたしがセドルから離れろってことを言いたいのかな」



あ、やべ。なんかイラッときてちょっとキツい言い方しちゃった。あーびっくりさせちゃったかなー。言いたいことがあるならはっきりいえばいいのに。こくり、と頷く彼女に気付かれないようにため息をつく。





「んー、あのさあ、あたしとセドルの何を疑ってんのか知らないけど、そういうのあのバカに言ってくれないかな」

「…っ、だって私からしたらっ…」



突然ぼろぼろと泣き出す彼女。うわっ、ちょっと止めてよー、これじゃああたしが泣かしたみたいじゃん、傍から見たら友達の彼女呼び出して泣かす嫌な奴じゃん!もー止めてよほんと!



「あのっ…ちょ!」



普段、ツルんでるセドルやボギーたちも部活仲間の女友達でさえあまり涙をみることがない。だからおろおろおたおたする。




「うっ…私からしたらっ…名無しちゃんといる時のセドル君の方が楽しそうで…っ仲良くて…まだ付き合ったばっかりなのに、そんな姿っ、見てて辛いの」



あー、泣かしちゃった。あたし悪くないよね?ちょっともうどうすればいいの、あたし女の子に泣かれたらどうしたらいいか分かんなくなるんだけど…




「あたしとセドルはさっきも言ったけど喧嘩友達みたいなものだから別に心配ないってゆーか、さ?」

「っ、それでも名無しちゃんは女でしょ?そんなこと言ってるけど、名無しちゃん本当はわかってるんじゃないの、自分の気持ち!私は自分といるよりも楽しそうにしてるセドル君を見るのが辛いの!」



あたしの気持ち?ちくん、と傷む胸の奥。あーもー面倒だよ何これ何この状況。



「つまりあんたが言いたいことは、セドルの近くにあたしがいるのは面白くない、と…必要以上に絡まないでってこと?」



イライラが絶頂に達しそうなあたしは腕を組ながら睨むように言い捨てる。すると彼女はこくり、と頷き、「お願い、そうして」こう言った。はあ、男が絡んだ女の小言…面倒なことはごめんだ。何で自分がこんなイライラして胸の奥がズキンズキンと傷むのか、考えることも面倒。





「わかった、セドルと話さなきゃいいんでしょ」



それだけ言ってふい、と背を向け歩きだす。てゆうかまじ、自分の女の管理くらいもっとちゃんとしとけ、バカセドル!ほんとおもいっきりぶん殴りたい。あの間抜け面にドリブル決めてやりたいくらい腹立つ。



「何なの、朝から」



鞄を持ち重い足取りで向かうのは教室。つーか席隣じゃん、どうしよ。あー面倒くさいことに巻き込まれた。本当イライラするな…





「おーっす!今日もまた一段と遅かったじゃん!どーせまた女だろー?」



当然、なにもしらないこのバカはいつもの調子で話し掛けてくるわけだ。ったく、あんたのせいでこっちは朝からまじで面倒なことに巻き込まれたんだっつの!シバきたおしたい!その衝動をグググッ、と抑えつけて黙って席につく。鞄を置いた時に思った以上に強く机に置かさり、バンッ!と大きな音が響く。




「んだよ、お前朝から機嫌わりーな…生理か?」

「黙ってくんないかな。うっさいバカセドル!」

「はあー?何なのお前まじで」

「別に、なにもないし。てゆうか話しかけないでよ」



多分イラッときただろう、セドルの声色も低く下がる。あーもーっ!




「は?お前なに、昨日から感じ悪いんだけど」




ぐっと掴まれる胸ぐら。近くなる距離に負けじと睨みつける。感じ悪い?そりゃあんたの彼女じゃないの。胸ぐらを掴んでいる手首をぐぐっと掴む。




「感じ悪くてすいませんね、だったら絡んでこないでよ」

「お前なにほんと。せっかく愛ちゃんと一緒に学校来ていい気分だったのによーに愛ちゃんの優しさの半分をお前に分けてやりてーし」



あーもうだめだ、今の言葉で怒りの限界突破。頭に血が登ったあたしは感情のままに吐き捨てる。





「まじでうるさいな、あんた。だから話したくないって言ってんの」



驚くほど冷たい自分の声にあたし自身が驚いた。




本当に嫌いなわけじゃなく、




あんたなんか嫌いだっつってんの!気がついたらそう言ってた。




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