その他中短

□唐突すぎやしませんか?
1ページ/3ページ


――マルクト帝国は首都グランコクマの防衛を強化しております。

ええと、あれ? 俺はいったい何をしていたんだっけ。つーか、ここどこだ。何だか夢でも見ているみたいに、全てがぼやけて見える。

――エンゲーブを補給拠点としてセントビナーまで……。

俺の口が勝手に何かを喋っている。うっわーお、イッツ怪奇現象!

なんて思っている内に視界がはっきりしてきた。

目の前には玉座に座った偉そうなおっさん。その横にはこれまた偉そうな大臣然とした白髪のおっさん……というよりもじいさんが控えている。そして俺はというと、裾がビロードの床につきそうなほどに長い、堅苦しい白い服を身に纏って彼らと対面する位置に立っていた。重くて動きづらいし、そもそも着た覚えもないのに何故?

「はれ?」

不意に口から洩れた言葉が、妙に大きく聞こえた気がした。と同時に、それまで茫洋としていた五感の全てが、幕が開いたかのように突如として鮮明になる。

「モース殿、いかがされた?」

おっさんが訝しげに眉を顰めながら尋ねてきたが、それはこっちが聞きたい。顔が引きつるのを押さえながら「いえ」と口を濁し、素早く辺りに目を走らせる。

服装や護衛らしき兵達の鎧や武器から言って、中世ヨーロッパ。状況から考えて、目の前にいるのは王様レベルの偉い人、ついでにここは謁見室っぽい。

そして、「俺」の名前はモース。

モースと言えば、米仏独でも使われているが、英国発祥の名前のはずだ。ということは「俺」は英国人で、ここは中世の英国の謁見室ということか?

「無礼者! 誰の許しを得て謁見の間に……」

不意に大臣(仮)が声を上げたので驚いて顔を上げると、王様(仮)も大臣(仮)も揃って俺の後方へと目を向けている。ちらっと振り返ってみると、どうにも見覚えのある面々が室内になだれ込んでくるのが見えた。

巨乳茶髪クール系美少女、黒髪天パのロリっ娘に長い茶髪の胡散臭い眼鏡野郎、中性的な緑髪ショタ……。

「うるせぇ、黙ってろ!」

加えてちょっとDQN臭い赤い長髪にへそ出しルックの青年とくれば、さすがに俺でも分かる。あれだ、やったことはないけどCMを見た覚えはある。テイルズシリーズの……何だっけ。

「その方は……ルークか?シュザンヌの息子の……!」
「そうです、伯父上」

おっさんと赤髪青年のやり取りを見て心の中で頷く。うん、そうだ。ルークとかいう奴が主人公だ。タイトルは覚えてないけど、オタクなダチに散々語られ、遊びに行くたびにプレイ画面を見せられていた。

何やら分からないが、ルークと王様が話し出したので邪魔にならないようにじいさんとは距離を開けるようにして場を空ける。俺すなわちモースの立場や役割が理解できない現状を打破するためにも、話を聞かせてもらって内容を思い出すとしますか。

「そうか!話は聞いている。よくマルクトから無事に戻ってくれた。すると横にいるのが……」
「ローレライ教団の導師イオンとマルクト軍のジェイドです」
「ご無沙汰しております、陛下。イオンにございます」

ルークに紹介され、緑髪のショタが発言する。ローレライ教団、ね。確か預言第一みたいなとこだっけ。

「陛下、こちらがピオニー九世陛下の名代、ジェイド・カーティス大佐です」

続いてイオンが眼鏡野郎を紹介すると、眼鏡野郎は仰々しく跪いた。ピオニーとかいう奴は確かルークの国と敵対する国の王様だ。あー、そうだ。戦争だ。戦争が起こるんだ。ルークの国とその国の間で。

「御前を失礼いたします。我が君主より、偉大なるインゴベルト六世陛下に親書を預かって参りました」

ジェイドが滔々と語り、ロリっ娘アニスに視線を送ると、アニスが前に歩み出る。大臣(仮)が胡散臭そうにロリっ娘を見下ろしながら彼女から封書を受け取る。

ん?親書?ってことは二つの国の間では国交があるのか。じゃあ戦争は記憶違い?

確か過去にも何らかの諍いがあったような描写があったはずだから、それと勘違いしたのかもしれないな。

なんてことを考えながら彼らを眺めていると、ふとこちらを睨んだルークと目が合う。日本人の常として反射的に愛想笑いを浮かべて会釈すると、思いっきり舌打ちしながら視線を逸らされた。うわぁ、俺ってばなんかめちゃくちゃ嫌われてないか?

「伯父上」

と、ルークが俺への嫌悪を顔に残したまま口を開いた。

「モースが言ってることはでたらめだからな!」

思いっきりこちらを睨みつけながら告げられた言葉に、笑みが固まる。

ん?あれ?もしかして、モースって悪役?

「俺はこの目でマルクトを見てきた。首都には近づけなかったけどエンゲーブやセントビナーは平和なもんだったぜ」

彼の言う単語の一つ一つを聞いて思い出す。あー、そうだ。ルークは物語の始めでヒロインと一緒に敵国マルクトに飛ばされて、マルクトの軍艦に捕まって、親書を届ける手伝いをすることになって、ローレライ教団に襲われて……。なんとなく話の流れを思い出してきたが、まだ思い出せない部分がある。

確か、ラスボスはヒロインであるティアの兄貴でルークの先生である、髭だ。モースは確か髭に良いように躍らされて、最終的にDBのセルと魔人ブウが混ざったようなキモいピザ野郎になって死んでしまうはずだ。だけど、モースはなぜ髭の思い通りに動いていたのだったろうか。

「あーっと、ルーク様?」

無礼は承知で声を上げると、途端に咬みつく寸前の犬みたいな敵意ギンギンな顔でこちらを振り返るルーク。確かこいつは、言っちゃ悪いが世間知らずの坊ちゃんで、だいぶ口が軽かったはず。うん、思い出せなきゃ聞けばいいんじゃね?

「貴殿の言い様ではまるで俺が故意に戦争を起こそうとしているように聞こえますが、戦争を起こしたところで一体全体俺に何のメリットがあると言うんですか?」

確かローレライは中立で対等な立場だったはずで、こいつは王様候補、俺はローレライのナンバー2だから、この位の敬語で十分かな?いまだに混乱しているせいで若干言葉遣いが荒いけど、ルークがルークだから少しくらい荒くても角は立たないだろう。

「しらじらしいんだよ!お前が預言狂信者だってのは分かってるんだからな!」
「ルーク、落ち着け」

王様に諌められ、ルークは口を噤んでしまった。残念、もう少し聞き出したかったんだけどな。

まあ、答えになってないルークの答えを聞いてだいたいのところは思い出せた。そうそう、モースは預言狂信者だ。モースの取った行動の全ては、預言を実現するため。

「こうして親書が届けられたのだ。私とて、それを無視はせぬ。皆の者、長旅ご苦労であった。まずはゆっくりと旅の疲れを癒され……」
「ちょっと待ってください!」

突如として叫んだ俺に、その場にいた全員の視線が突き刺さる。そりゃそうだ。モースは嫌われ者だもんな。おまけに王様のセリフ遮っちゃったもんな。

でも、ここが勝負どころだ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ