散りゆく桜の美しきかな

□来たるべき日
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明くる日、六月五日の朝、騒がしく足音を発てて土方の部屋に入って来る者が一人。

「土方さーん!起きてやぁ。大変なんや。」

新選組の監察方…とでも言うべきか、雀が襖を勢い良く開け放ちそのまま土方の枕元に駆け寄った。

大きな声と騒がしい足音に土方は眠り続けることが出来るわけがなく、目を開けて枕元に近づいた雀の方を見た。
目が覚めてから、朝の空気が頬を撫でたのを感じた。

「どうした、こんな朝早くに。俺に何か用でも?」

「せやから、大変やって言ってるやん。とにかく、うちに付いて来て。」

そう言い終わると土方の了解も得ずに彼の左腕を引っ掴み、布団から引きずり出そうとする。
さすがに雀の力で土方の体が動くわけもなく、結局のところ雀は無駄な体力を使う羽目になってしまった。
土方は、雀の行動を見て仕方なく思い、起き上がり、布団から出ると大きく伸びをした。

「よし、さっさと連れてけ。」

「わかった。」

着流しのままの土方を引きつれて、雀がやって来たのは薄暗い蔵。あたりはしんとして動くものは二人だけ。

土方は、ここに来た瞬間に此処がどこだか分かった。

「拷問部屋…か。」

此処は捕縛した者から情報を聞き出すために使用する拷問部屋だ。

たまに山崎が拷問を行うが、『鬼の副長』の異名を持つ土方が行うのも珍しい事ではない。
なかなか喋らない奴には、土方の拷問の方が効果的だった。

「あんなぁ、宮部の下僕な、父上のだけやとあんまり詳しいこと喋らへんの…。せやから土方さん呼んでおいでって。」

「そうか。じゃ、お前は戻っとけ。」

雀はこくんと頷いて明るい方へと向かった。
続いて土方は蔵の扉を開いた。
重々しい音と共に開いた扉の先には、明かりが一つと山崎、逆さ釣りになった人が一人。

─あれが…な。

見るかぎり、腕には青痣、ところどころに火傷の跡がある。



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