背には誠一文字
□悪戯計略戦
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「刀で斬られるのよりはマシですからね。」
「そりゃ確かに。刀で斬られたら死んじまうよ。…よーし、じゃあ行こうか?」
「いざ永倉!」
「鎌倉じゃないんだからさぁ。」
二人は意気込みよしで永倉の部屋へ向かった。
爆笑しながら歩く二人を何人もの隊士が目撃したのは言うまでもない。
所変わって永倉の居る部屋では。
「非番ってのはいいもんだ。刀の手入れが落ち着いて出来る。」
あぐらを組んで座り、丁寧に刀の手入れをしている。
部屋には他の非番の隊士達もおり、ごろんと寝転がっていたり刀について語ったりと、各々くつろいでいる。
そんな中、永倉に話し掛ける隊士が一人。
「永倉先生、お暇でしたら稽古つけてもらえませんか?」
永倉がふいとその隊士に目を向ける。
視界に入るのは面識のない顔だ。
少し長めの黒髪は邪魔にならないように頭の上の方に赤い紐で結んである。
まだ可愛げが残る上に若干幼い顔だ。
─見たことのねぇ奴だ。
「刀の手入れが終わったら構わねぇよ…。」
再び視線を刀に戻して無愛想にあしらってみせる。
「あっ、ありがとうございます!」
その隊士はそんな態度を気にする事もなく深々と頭を下げた。
「俺は教えんのも仕事だからな。」
「では、僕は其処に座ってます。終わったら声掛けてくださいね。」
「おーう。」
その隊士は永倉に小さくお辞儀をしてから部屋の隅の方に静かに座った。
髪を結んでいる紐が綺麗な軌跡を描いて動いた。
ドタドタッ
「ぱっつぁん!」
刀の手入れが終わったちょうどその時、襖が勢い良く開くとともに沖田、藤堂が走り込んできた。
それまでくつろいでいた隊士達はいきなりの出来事に驚いてしまった。
そのため全員が二人の方に目線を向けている。
永倉はただ深く溜め息をついた。
「あははっ…、間違えちゃいましたー。では…。」
誤魔化すような顔で笑い、そのまま来た道を戻り始めた二人。
今度は静かに襖を閉めようとした。
「では、じゃねぇよ!」
永倉は沖田にそう言い放ってから手入れの終わった刀を鞘に戻してから立ち上がり、左手にそれを持ったままくるりと沖田、藤堂に背を向けた。
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