背には誠一文字

□楽観的日録
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─寒くなったもんだなぁ。

顔を上げて空を見渡せば、薄暗い空に灰色がかった雲があちこちに散らばっている。
今にも雪が降り始めそうだ。
息を吐けば白い息となっては知らず知らずのうちに消えてしまい、頬を撫でる早朝の風は肌寒かった。

それは『壬生浪士組』が『新選組』と名乗り初めた年の冬の時。
紅色の着物を着ていて、やや小柄な青年が屯所の庭に出て空を眺めていた。
彼の名は永倉新八。

─まーだ誰も起きてねぇから暇なんだよなぁ。

ふぅ…。と詰まらなそうに溜め息をつく永倉。
不思議と早くに目が覚めたために庭に出てきたという訳なのだ。

「めったに早く起きねぇのにな…。変な事が起こりそうだよ、まったく…。」

霜の降りた草を見下ろしながら柄にもないことを口にする。
すぐさま「んな訳ねぇか。」とぽつりと呟くとその場を後にして部屋に戻ろうとしていた。

大してしたいこともない訳なので、少し遠回りをしようと歩みを進めて暫くしてからだった。

「うわっ!」

建物の角に差し掛かったあたりで、昨夜の寒さによってできたであろう氷が張っていた。
まさか氷が張っているだろうとも思わなかった永倉はあっけなく氷に足を取られてしまった。

まだそれだけならよかったのだが…

ガツン!!

「痛っ!」

「もー痛いじゃないですかー。」

運悪く誰かと頭をぶつけてしまったのだ。
はっと目を開けてみるとそこには永倉がいた。

─はっ!?俺?

「わー、俺がいますよ。夢でも見ちゃってるのかな?」

─いやいや、絶対に有り得ねぇだろ。だって俺は俺だしよー。

ぶつかった相手は沖田で、自分の目の前には自分自身の姿が。
慌てふためき、訳の分からない思考を巡らす永倉に沖田は言葉をかけた。

「何がどうなったんですかー?」

「この喋り方は…沖田か!」




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