小説
□君は。
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春、出会いと別れの季節。
そんな言葉をよく聞くけれど、少なくとも俺はそんな言葉、信じたくない。
「綺麗だね」
「うん」
桜並木の中、宵風と俺はゆっくりと歩いていた。
ふと見ると、宵風が珍しくじっくりと桜を見ていた。
「どうしたの?」
「…今のうちに見ておかないと…来年には見れないと思うから」
その目があまりにいつも通りで、なんだか悲しかった。
「そんなこといわないでよ…」
俺のことなんて、宵風にはどうでもいいの…?
俺は、宵風がいなくなったら嫌なのに。
もう、無関心ではいれないのに。
宵風にとって、俺なんて、只の「ちょっと関わった人」なんだろうか。
「大切な人」にはなってないのだろうか。
宵風は相変わらず桜をじっと見ている。
無垢とは程遠い、けれども何処か純粋な目――
「そうだ、俺ん家来ない?!」