06/07の日記

12:57
幼少期@〜約束
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 まだ小さい頃。
それこそ10才かそれ以下か。
 姫乃の家は、いわゆるお金持ちであった。ゆえに小さい頃から欲しいものはなんでも手に入り、贅沢な暮らしを送っていたと思う。
 着るものにも食べ物にも、学業でも不自由したことがない。
 近所にも仲のいい友人がいた。

 今日もその子は姫乃の玄関をたたく。
「姫乃、遊びに行こう!」
 元気のいい声が響く。姫乃と同じくらいの男の子だった。
 声を聞いて、家の中にいた姫乃は、ぱっと明るい笑顔を作り、急いで玄関に駆けてゆく。
「こんにちは、凛太郎」
 扉を開け、挨拶をすると、凛太郎は無邪気に姫乃の腕を引いた。姫乃は突然のことにバランスを崩しかけた。
「姫乃、今日は俺の秘密の場所を教えてあげるよ。ついてきて」
「ちょっ、ちょっと、凛太郎〜」
 そのまま手を引いて走り出した凛太郎に慌てて姫乃はついていく。
 凛太郎は転びそうな姫乃に気付いて、速度を少し落とした。
 しかし、はやる心は抑えられない。一刻も早く姫乃にそれを見せてあげたいのだ。
「ねぇ、凛太郎、どこに行くの?」
「行けば分かるよ」
 住宅街を駆け抜け、少し道を外れて畦道を通り、石段を上って神社の境内に入ると、裏の雑木林を抜けていく。
 もうすぐだ。
 姫乃は一面に広がる白い花を前に、感嘆の声を上げた。

 そこは丘だった。辺り一面にはシロツメクサ。みんなひしめき合って咲き誇っている。
「姫乃」
 呼ばれて振り返ると、凛太郎が頭にそっと何かをのせて来た。
「?」
 姫乃は頭にのせられたそれを手に取り外した。
 それはシロツメクサで編まれた花輪であった。
「花冠…。凛太郎が作ったの?」
 凛太郎はふっと笑い、姫乃にひざまづいた。
「凛太郎?」
 凛太郎は姫乃の手を取り、甲にそっと唇を寄せた。
「大人はこうやって好きだって云うんだって」
 姫乃はきょとんとする。
「俺さ、姫乃のことが好きだ。好きだから姫乃のこと守りたいし、傍にもいたい。大きくなったらケッコンしてくれ」
「ケッコン?」
「…よく分からないけど、大人になったらすることらしいよ」
「へー。そうなの。いいよ。私も凛太郎のこと大好きだから」
 姫乃は小さな身体で腕を広げて凛太郎に抱き着いた。
 凛太郎は少し驚いたが、立ち上がって、ぎこちなく姫乃の背に腕を回した。
「凛太郎、ありがとう。こんなステキな場所を教えてくれて」
「姫乃は特別だからいいんだよ。俺姫乃のためだったらなんでもするから」
「ホントに?」
 姫乃が離れて顔をあげると、凛太郎は大きく頷いた。
「ああ、ホントだよ」
 交わされた約束は色みを増してふたりの心に刻まれた。



 そして、その帰り道、事件は起きた。

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