NOVEL-1-

□お仕事中です
2ページ/6ページ



「これはどうもどうも」
「この度はこんな所までお越しいただいて…」

親同士の会話が始まる。
とりあえず、顔を伏せた。
早くおわんねーかな…。



向かいあわせに相手方の親と息子が座った。
視界の隅にそれが映るのみで顔などはもちろん確認できない。

辛うじて判る事は、息子は黒っぽい服を着ていた。



「お写真などは拝見しておりませんでしたが、ご立派な息子さんですね」
「…あ、いえいえとんでもない! そちらの娘さんも大きくなられて。前に見たときはまだ10歳くらいでしたもんね。
 お美しくなられて」
「とんでもない!とんだお転婆ですよ」


などと、お見合い恒例のお互いの子供褒め大会が勃発。


あー退屈。

息子の方も何も反応は無い。
大方この親同士の会話に飽き飽きしているのだろう。


そんな歓談が結構続いている中、息子がついに沈黙を破った。

「すみません、ちょっと席を外します。すぐに戻りますので」

そういってすっと立ち上がり、部屋を出ていく姿が視界の隅に見える。


いいな。俺もそーやって出て行けばよかった。
とりあえず伏せていて首が痛いんで頭一回あげようかな。

すこし面を上げて、今外に出ようとする息子に無意識に目をやった。







声にならない驚愕。













…ひ、土方ぁ!?









そのままこちらにも気づかず、
息子は襖を閉めた。



え?
えええ????

あれ土方だよな?
どー見ても土方だよな?

でもでもでもでも何でここに?
たしか幕府のお偉がたの息子との見合いだよな、これ?


あああ???
わっかんね-----------!!!

一人パニック状態が続く中、
数分後息子は帰ってきた。

着席と同時に気づいたのは煙草の香り。

こいつ、外で吸ってきたな。

息子イコール土方説はさらに確立アップしてきた。


そして数十分後、やっと親同士は去っていった。

あとは若いもんどーしにー…ってヤツですかぃ。



「…」
「…」


沈黙が続きます。
…あのーかえってもいいですか?俺…。



「おい」
「……」
「こんなとこで何してる、万事屋」
「…」


ばれてるんですか、コノヤロー。

「…仕事だよ、仕事」
「どんな仕事だよ、オイ」

「だってあのちっさいオッサンの娘が逃げ出して…
 その代わり」
「…お前もか?」



え?

思わずずっと伏せていた顔を上げた。

「ご丁寧に化粧までしてんのか?お前」
「うっせーよ。それよか、どーゆー事?お前も俺と一緒?」

土方は煙草に火をつけて一口吸うって大きく吐いた。

煙がすこしかかって煙たい。

「俺も見合い代理」
「まじでか?息子は?」
「なんか居なくなったらしい。見合い話を断るわけもいかず、
 たまたま仕事休みだった俺を代理を立てたって訳」


何だよ、今はエスケープが流行りか?

「大変だねぇ幕府の犬も」
「お互い様だろ」



正直、このパー子状態の俺を嘲笑うかと思っていたのに
意外にフツーに接してくる。


途端に緊張の糸がぷっつりと切れた。



「あ------もうなんだ-----
 無駄に緊張したのに」

大きく伸びをしたら、あくびがでた。
よく考えてみれば、めずらしくここ数日は働いていたので疲れていた。
しかも今回の仕事でさらに疲労度アップしてた。



「ふぁあ…ねむ」
「寝るか?」




次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ