NOVEL-1-

□夢現
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『夢現』

遠くで
ドン、と花火が打ち上がる音がした。
と、同時に歓声が沸くのが遠くで聞こえる。



その音に促されるように目を開けると、
見慣れた天井。


「…頭いたい」
身体がだるい。
頭に貼ってた冷却シートがカラカラだ。
取り替えようと身体を起こす。


「俺が替えるから寝てろ」

ん?だれ?
声のする方へ目を向けると
呆れた顔した土方が居た。

「あれ?何で土方がウチに居んの?」
「熱出たってチャイナに聞いた」
「神楽達は?」
「花火見に行った」

こう会話をしている間にも花火の音と歓声だけが
開けた窓を通じて聞こえてくる。


今日はでっかい花火大会がある。

3日前。
こんな自由業のおっさんに「花火を見に行こう」と誘ったのは
今目の前に居る、俺よりちょっと男前のケーサツ様。

いつも俺と喧嘩ばかりしているお前が
いきなり真剣にそんなことを言ってきて何の冗談かと思った。

何より、そのお誘いをいただいた次の日に
新しい浴衣を買いに行く自分が
一番シャレにならないと思った。


「…眠い」
折角誘ってくれたけどごめん。
俺、どうも遠足楽しみにしすぎた子供みたい。
張り切りすぎて、熱出す。みたいな。
あぁ、かっこわりぃな。俺。


「ゆっくり寝ればいい」
「うん」

何かやさしいな、土方。
あー…もう眠いな。

前髪をあげられて、新しい冷却シートが貼られる。
そのまま頭を撫でられて、何だか寝かしつけられる子供の気分だ。

新しい冷却シートが冷たくて気持ちいい。
もう目まぶたが重い。


土方のおやすみと言った声と花火の音、
そして自分の唇にあったかい何かが触れた気がした。

夢現だから夢かもしれない。
そう思いながら、意識を手放した。




END



●あとがき
何だか花火ネタでした。

2008.8.2







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