NOVEL-1-

□ひと夏の恋
1ページ/1ページ




夏、というのはなんとなく浮き足出すものだ。

暑くて脳ミソは誰でも3割増しでおかしいものだ。


ひと夏の恋、は正しくその産物だ。




『ひと夏の恋』


クーラーもねぇ我が家に、こんな暑い日は居れる訳も無く。

涼みついでにパチンコ行ったけど、
この暑さに俺の勝利の女神も
溶けていなくなった様子(いやもともとから居ないか)


ボロ負けで店を出た。
こんな暑い陽炎の中で、向こう側から歩いてくる黒い奴。
めずらしく一人でみまわり、ってとこですか?

上着は着てなくて、シャツの袖は腕まくり。
紫外線に晒された腕がまぶしくて。
(何見とれてるんだ、俺)


太陽の光をバカみたいに吸収しそうな真っ黒な髪を
暑そうに掻きあげたところ目が合った。

目が合った瞬間、胸が騒いで一瞬眩暈がした。
何?俺そんなに暑さにやられてる?


「昼からパチンコとはイイ身分だな」
「自由業ですから」

ニートの間違いだろーが、と言いながら土方の形のいい唇は煙草をくわえた。
そして、長い指が煙草に火をつける。


「こんな暑いのに、よくそんな暑いもん咥えれるな」
「それとこれは別問題だ」
「ふぅん」

ふう、と土方が煙を吐けば
さらにこの周辺の温度は1度も2度もあがった気がした。

「俺はアイスくいてーな」
「何も聞いてないぞ」
「あの店がいい!」

有無を言わせず、
土方の空いた手をとって勢い良く引っ張る。
こんな暑い日に手を繋ぐなんて、
俺の頭もどうかしてる。
でも、その手に指を絡めてくるあたり
土方の頭もどうかしてる。


「今日、暑いね」
「暑いな」


暑くて脳ミソは誰でも3割増しでおかしいものだ。



あぁ、ひと夏の恋にしてはタチがワリィな。

できれば夏が過ぎても、
この手を離したくない、とか思ってしまった。






END



2008.7.25


●あとがき
自分記念日(超個人的)で突発で描いた夏っぽい小説。

このときめきは、暑さのせいであって
ひと夏の恋だと思い込んでる
銀ちゃんでした。
フツーに恋だ、と気づくのは少し先のお話ですな。







[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ