NOVEL-1-

□夜はこれから
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『夜はこれから』











無用心にもその家の戸は開いていた。



何度か戸を叩いても誰も出てこないし、
アイツの家の固定電話をしても誰も出ない。

まぁこんな夜遅くだしな。




−−−連絡とりたくても取れねぇんだから、仕方ない仕方ない。




と自分に言い聞かせて
深夜2時の万事屋の戸をそろりと開けた。




1ヶ月ぶりに入った万事屋は、深夜ということも手伝っていたって静かである。

無用心に開けっ放しの窓から注ぐ月明かりだけが頼りで歩く。


まったく、初夏だからといっても

玄関も窓も開けっ放しとはどーなんだ?


そう思いながら、奥にある想い人の部屋が見えてくると思わず足早になる。







あいつに想いを告げたのが1ヶ月半前。
ちなみに、メガネもチャイナも居ないのを見計らって万事屋に押しかけて。

意外にもあっさりOKをもらって拍子抜けしたのは言うまでも無い。


と、言っても所謂恋仲になろうとも関係は平行線のままで。



特に進展といった進展は無いまま、半月たったある日。

仕事で江戸を1ヶ月離れることになり。
それを告げた俺に、特に表情も変えずアイツは
「気ぃつけて行って来い」と手をひらひらと振るだけで。


それにむかついた俺は、無言でその場を立ち去って。



悶々とした思いの中仕事をして。



ようやく1ヶ月。
今日やっと江戸に帰ってきた。




帰りが深夜だったが、どうしてもアイツの顔が見たくてココに来た。



残念だが、俺が想っているほどアイツは俺のことを想っている訳では無いようだ。

恋仲とは自分がそう思っているだけで、
片思いをいう枠のままだと思う。




はぁ。


アイツの部屋を目の前にして大きな溜息がでる。

いくら逢いたかったと言ってもこんな深夜に突然来たら怒るだろうな。
いや、ここまで来たんだからもう後に引くものか。




そろりと部屋を開けると、薄い布団を蹴飛ばして大の字の銀色が見えた。



開けっ放しの窓から入る風と月明かりが
銀糸を揺らし、そして輝かせていた。


近づいて顔を覗くと、目は閉じられていて
薄ら口がだらしなく開いていた。

寝相が悪いのか寝巻からは腹あたりが出ているし、
枕もずれている。



…なんてマヌケな姿で寝てやがる。


そんな寝姿でも愛しいと思える自分がちょっと痛い。(自分で言ったら終わりだな)





「ったく、風邪ひくぞ」

夏風邪は馬鹿がひくとは良く言ったものだ。


また溜息がでた。



相変わらずふわふわの銀糸は風に遊ばれてゆれている。


少しソレに触れてみたくなって手を伸ばす。

思いの外柔らかい髪で少し驚く。
気づけば、コイツの髪すら触れたことも無かった。



「…なぁ、テメェにとって俺は何だ?」



返ってもこない質問を
銀糸に指を絡めながら
小さく投げかけた。





「何乙女みたいな事言ってんだ」




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